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ふ た ご の ピ エ ロ
( PJ001 )
「自由への道 4部」 への追補
どんな鳥も 僕達の想像力より 高くは飛ばない
絵・物語: RiéTan
プロローグ
□□□日曜の午後、ひとりの年老いた男がカフェに座っている。
既に「自由への道 Ⅰ.Ⅱ.Ⅲ」に書いたドイツで捕虜となった、その後の日々を
思い起こしつつ外を眺めている。
可愛い外人の女の子が、メトロVavin駅から上がって来る。
彼がいるカフェの眼の前で、数人の危険な男達に取り囲まれた。
「止めなさい。」
彼が叫んだ瞬間、女の子は一目散で駆け出し何処かへ逃げて行った。
30分後、女の子はカフェに戻って来て、彼の隣に座る。
飲み物を注文したが、ガルソンには下手なフランス語発音は理解できない。
「オレンジジュースを注文している。」
「ありがとうございます。Bonjour monsieur ! 」
「Bonjour mademoiselle ! 」
「あなたはフランス人ですか。」
「そう、フランス人。あなたは日本人でしょう。」
「そう、日本人。オレンジジュースをどう発音するのか教えてください。」
数分後、彼女は正確に発音できるようになった。
「さっきよりはずっといい。それで正確に伝わる。あなたは観光客?」
「違う、留学生。1週間前にパリに着いたばかり。
何しているの、あなたは?」
「書いている。」
「あなたって、船長さんみたいな雰囲気。
長~ぃ航海を終えて回想録を執筆している。」
「その表現は気に入った。あなたの国へ行ったことがある。
仕事で招待された。帰りにお土産にもらった。」と腕時計を見せる。
「メイド・イン・ジャパン。あなたの名前は?」
ガルソンがオレンジジュースを持ってきた。
「マドモアゼルに何かケーキを。」
「かしこまりました、Monsieur distingué 」
それは1973年夏、パリの青空の下、
何処にでもあるような多くの出会いのひとつだった。