PierrotsJumeaux004jp

2. 出 発

2 – 1    チンチラ

一週間後、
ソレール と リュネールは大きな丸い眼をした真っ白な眩しいチンチラに出会った。
「ねぇ、君。 君は誰なの?」
ふたりは思わずチンチラの後を追って駆け出した・・・・・・・・・・・・

「フゥーハ!!! どうしよう。 サーカスから離れてしまったよ。」
本当に、夜明けにバラ色に輝くテントが遠くに見える。
「旅に出よう。」とソレールが提案する。
「何だって。旅に?出る? 嫌、嫌だ。怖いよ。気は確か?」
リュネールは反対する。
「だから何さ? 君はいつだって心配ばかりしている。・・・・・
ね、怖がらないで。何とかなるさ。うまくいくよ。」
とソレールが言う。
「私はサーカスに残る。放っておいて。」リュネールは頭を横に振る。
「心配しないで、うまくいくから。 長い旅に出よう。出発
心配無用、うまくいくさ。」
ソレールがリュネールを元気づける。
「嫌というわけでもないけど・・・・・でも、何処へ?
待って、待って! 独りにしないで、ソレール。」
とリュネール。
「ネヴァーランドを探しに行こう。リュネール、出発だ
天気も素晴らしいよ。 ネヴァーランドへ行こう。
母親狼が語ったジャングルの伝説を信じよう。」
ソレールが喜んで叫ぶ。
「ジャングルの伝説????? 母親狼????? マジ?
一体どうしたの、ソレール。」
リュネールは、ただただ驚くばかり。
「さぁ、出発だ !と元気なソレール。




百の野を こえ
百の谷を こえ

□□□七つの海が
□□□□..北回帰線と
□□□交差する あたり
僕達が めざす
□□..新しい大陸がある

□□□□□□..夜が あけたら
はやるこころを おさえて  僕達は
はだしで 駆けて 君に あいにいく

2 – 2    ブルーフォックス

小春日和の花々の小路を辿って、まだ半時間も歩いていない頃ふたりは、
立派な正装をしたブルーフォックスにばったり出会った。
「あなたはどなたですか?」 ソレールが尋ねる。
「学生達からブルーフォックス様と呼ばれているのじゃ、私は。
この髭は今、流行りじゃ。
ところで、あなた方の輝いている衣装は可愛いなぁ。
一体どういう風の吹きまわしで、ここまでお出でかな。」 
と丁寧な口調で聞き返してくる。
ソレールとリュネールはふたりとも、銀色に輝くおそろいの衣装を着ている。
ソレールは太陽の模様、リュネールは月の模様。
「質問してもいいですか?」 リュネールが尋ねる。
「勿論じゃ~ぁ。さぁ、さぁ、どうぞ。」 ブルーフォックスが答える。
「ひょっとして綺麗なチンチラを見かけませんでしたか?」 ソレールが尋ねる。
「見ておらん。けどな、
ヴァイオリンを手にしたマリンルックの少年が口笛を吹いているのを見かけたな。」
とブルーフォックスが答える。
「その少年と話した?」 ソレールが尋ねる。
「とんでもない。あなた方は運がいいの~ぅ。
その少年は、ほら、この道を行ったのじゃ。」
とブルーフォックス様は右の道を指さした。
「ありがとうございました、ご親切に。」ソレールがお礼を言う。
「とんでもない。私は、いつだって親切でお優しいのじゃ。それでは、良い一日を。」
とブルーフォックス様も挨拶する。

ソレール と リュネールは、ブルーフォックスと別れた。
「運がいい?
あのブルーフォックスは、サーカスの仲良しの動物達と何だかちょっと違うよ。
変な奴じゃない? ちょうど運が良かった? 古狸じゃないの?」
とリュネールは怪しがる。
「あのブルーフォックスを信じないの? とても優しいよ。」とソレール。
「狐につままれたよう。」と答えるリュネール。
「気にしないよ! 今日はいい天気だなぁ! 行くぞ~~
僕達は若い。僕達の前には未来がひろがっている。
ラ・ラ・ラ・ラ・ラ・・・・・」
ご機嫌なソレール。
「怖いよ、ソレール。」と怖気づくリュネール。
「甘い香りの春風が吹いている、大好きだよ~! 行くぞ~~
リュネール! 大地いっぱいの自由の風。」
ソレールは前進する。
「進め~~ 進め~~! 進め~~
ソレールにつられてリュネールも進む。

2 – 3     ジュネス

「あ・・そ・・ぼ?」
突然マリンルックの少年が現れて、笑いかけながら近寄ってくる。
「だれ?」 ソレールが聞き返す。
少年は、何も言わずに一目散にスタスタと逃げて行った。
「待って 待って リュネールが叫ぶ。
「あのね、君達は先ず、僕が誰なのかを知るべきだよ。」
不思議な少年が答える。
「だから誰なの?」 ソレールが、もう一度尋ねる。
「何者? 誰なの?」 リュネールも尋ねる
「誰でもないよ。こっちへおいで」 少年はふたりを手招きする。
「でも、誰なの?」 ソレールが繰り返
し尋ねる。
「どこから来たの?」 リュネールも尋ねる。
「当ててごらんよ。」 と少年は遠くから答える。

「あの少年はいつだって笑っている。
馬鹿ではないけど、でも・・・・・何だかね。」
とリュネール。
「何者なのだろう? 鯨みたいに大口を開けて笑っているよ。」
とソレール。
「今日からは、ジュネスと呼ぼう。
僕達の父上を知っているかもしれない。
ネヴァーランドへの道だって知っているかもしれない。
行くよ~~! ソレール。」
とリュネール。
「??? リュネール、君はいつになく元気だね。
行くぞ~~! 我が春だよ 春! オー・プランタン。
なんとかなるさ、なんとか。」
とソレール。

そよ風が吹いていた。
木々の若葉が美しく、春の陽がさんさんと降り注いでいた。

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2 – 4    大鷲

ふたりは、春の花々に彩られた長い道のりを進んで行く。
すると、一羽の鳥が飛ぶ。
「見て! 黒い鳥だ 素晴らしいメルベユーの鳥だ」 リュネールが叫ぶ。
「凄い、す・すっご~いなぁ。
あの鳥のように、僕達も独り立ちして飛ぼうよ。」 
とソレール。
「でも、どの方向に飛ぶの?」 とリュネールが尋ねる。
「あの鳥が知っているかもしれない。
さぁ、あの鳥の後を追うよ、リュネール。」 
とソレール。
「空には雲ひとつなく、いい天気だ。 あ~美しい空。」 とリュネールもご機嫌だ。
「絶好調のスタート日和
すっかり、ソレールは美しい黒い鳥の虜になってしまった。

 

どんな鳥も 僕達の 想像力より
□□□高くは    飛ばない

嬉しさに飛び跳ねながらリュネールが歌いだす。
しかし、メルベユーの大鷲を追っても無駄だった。大鷲は雲の中に姿を消した。
やがては、すっかり見えなくなってしまった・・・・・・・・・・・・
「君は、異国の空を飛ぶ鳥。」 ソレールが溜息をつく。
「君と一緒に飛ぶことができたら・・・・・!!」 リュネールが
空を見上げる。

2 – 5    また ジュネス

「あっ、ジュネスだ」 リュネールが道の途中で気づく。
ジュネスが前歯でクルミを割りながら、ハイサヨナラと手を振って遠ざかって行く。

「ジュネスの声をおぼえたよ。」 とソレール。
「ジュネスの足音をおぼえた。」 とリュネールが続ける。
「ジュネスは気まぐれだね。」 とソレール。
「知らん顔するね。」 とリュネールが続ける。
「横がおが美しいけど。」 とソレール。
「夢見る人みたいに歩くね。」 とリュネールが続ける。
「誰なんだろう?」
「だれ?」
謎々遊びの答えは
、まだまだ見つからない。




□□君を 追いかけて  追いかけて
いつしか 君の声も  君の足音も
おぼえた          気まぐれな
君は 知らんふり      うつくしい
横がおを みせて   通りすぎていく

 

歌に つられて やってきた君は
晴れやかな顔をして 語りつづける

君の瞳に 僕達が まだ 知らない
幸福を みつける
恋するには 夏は 短く
だきしめるには 遠すぎる
みつめるには まぶしく
忘れるには 遅すぎる




□□□□□□□□□□□□青空に映る
バレンシア・オレンジの まぶしい
幸福の彩り(いろどり)を 思い出したら
もう一度 帰ってきて マ・ジュネス

        

あざやかな 白群の 舞扇(まいおうぎ)を 高く
かかげて 女神たちが 旧街道を
通りすぎて行ったら 足音を
しのばせて いたずらな 君は
パンパス・グラスの葉かげから
僕達の前に 姿を 現すのだろう

海鳴  迷路パズル