9. 虹の城、ラルカン・シエル城
9 – 1 迷路
ついに、シャトーの扉が開いた! ふたりは不思議な暗闇の迷路に入り込んだ。
手探りでゆっくりと進まなければならない。
ふたりには何も見えず、何も聞こえない。何も。何も。何も。
「た・だ・い・ま・・・・着きました。 お邪魔しまっ~ す。」
「しま~ す。」
「お邪魔ですか・・・・」
「お邪魔じゃないでしょうか・・・・ 」
「僕達は何のためにシャトーへ来た? 無を見るために来た?」
リュネールが問う。
「もう、八方塞がりだ。 どうしよう。」 ソレールが言う。
「口真似しないで。 どうしよう。」 リュネールがいつもの口調で言う。
「僕達がサーカスを出発したのは、今では遥か遠い昔のこと。」
ソレールが嘆く。
「あれは春の日、雲ひとつない青空の春に出発した。
そよ風が頬を撫でていた。」 リュネールは思い出す。
「いつだったか、どこだったか、もう分からないよ。
もう、だめだ。どうしたらいいか分からない。
この霧では何も見えない。」 ソレールの心が沈んでいく。
「ルテティアの都は美しかった。
記憶から消えるということがない。」 リュネールが暗闇で言う。
「なんて馬鹿なのだろう! 僕達は。」 ソレールが絶望的な口調で言う。
「ぼんやりし過ぎたのだろう! お月様みたいに。」
今度はリュネールがソレールの口真似をする。
全力でなんとか迷路を抜け出そうとしたが無駄だった。
迷路から抜け出すことができない。今、迷路のどのあたり?
どうしても抜け出せなかった。
「足に豆ができてしまった。もう何もしたくない。泣きっ面に蜂。」
リュネールが足の豆を嘆く。
「一巻の終わり、万事休す。 わけが分からない。 疲れた。」
ソレールがしょんぼりと答える。
「こうやって、まだまだ困難の道は続くの?」 とリュネールが呟く。
「さぁ、元気を出して! 進め! 君達の道を進め!」
真っ暗闇の中で突然、チンチラが励ましてくれる。
「あっ~ 嬉しい。 君はそこにいてくれたの。」 とリュネール。
「いつだって君たちと一緒にいるよ。 君は、ひとりぼっちではないよ。」
チンチラが暗闇の中で答える。
次第に眼が暗闇に慣れてきた・・・・・・・・
やっとのことで、ふたりは迷路をどうにかこうにか脱出することができた。
やった~。 あぁ、よかった。 ヤッタ~。
参ったな、今度ばかりは。 参りました。
□□□
トムソーヤとハックル・ベリーフィンの
冒険物語に 誘惑されて 僕達は
迷路の謎のなかに おしいる
( PJ005 )
9 – 2 アルテミス
窓越しに、ふたりは見た。
手には剣を持ちライオンの背にまたがり、
夜空から舞い降りてくる豪華な長い金髪の美しいダームを。
「豪華な人だ・・・・・」 とソレール。
「なんて可愛い子でしょう!」 とアルテミス*が答える。
紫いろの 夜の中から ミューズ(詩の女神)は
獅子の背に 身を おどらせて
地上へと 舞いおりる
「昔、ジュネスが言った通りだ。」
リュネールはジュネスの謎々遊びを思い出した。
ずいぶん昔のことだ。
突然、アルテミスの剣が月の光を反射して迷路の中を明るく照らし出す。
「見て! 大きな扉が見える。」 ソレールが喜んで叫ぶ。
*ブリジット・バルドー フランス女優
桃花染(つきそめ) 迷路パズル