PierrotsJumeaux013jp

11.  虹、ラルカン・シエル

11 – 1  15人の花の妖精たち

ふたりが鏡の間を出ると、15人の花の妖精たちが待っていてくれた。
行く手には虹が現れた。
「虹というのは地上へと渡る、時を刻む橋です。」
「あなた方はもう二度とここへは戻れません。  この王国の掟です。」
「国王が亡くなったので、このシャトーはもうじき消滅するのです。」
「私たちの庭園は、いつだってあなた達の心の中に存在する王国なのです。」
「今も嘗ても。」
「私たちは、このフェアリーランドから出ることはできないのです。」
「もし出たら、一瞬のうちに年老いてしまうでしょう。」
「あそこを見て。」
聡明な妖精ティニーが、薄汚れ羽で横たわる妖精の死骸を指差した。
どこかで見かけたことがある妖精のようだった。

「怖がらないで
「真っ直ぐに進みなさい。」
「急いで急いで
「急ぎなさい。」
「時間は決してあなた達を待ってはくれない。」
「時間は決して止まらない。」
「ぐずぐずして失ってもいい時間などない。」
「後ろを見てはいけない
「決して過去を振り返ってはいけない
「この虹は、時間の橋です
「新しい世紀がもうじき開く。」
「虹の彼方には、新世紀の夜明けが待っている。」
「でも、僕達はだいじなシァン・シァンをルテティアの都で
牛の群れの中に残してきた。」 
ソレールが言う。
「君の恋人、タック。」 とリュネール。
「牛の群れ?」
「それだけが、たったひとつの・・・てがかり。」 
とリュネールが説明する。
シァン・シァンがいなかったら、もうどこへも行きたくない。
ここにとどまるよ。」 
とソレール。
「探してきてあげる。」
「私たち妖精には簡単なこと。
私たちは空間の中で、クラウドで自由な身だから。」
「雲より上を長距離飛行できる。」
「えっ、すごい、たまげた
「よかった

11 – 2  雲

「まず、お祈りをさせて。   朝には絶望、夕べには希望。
朝には絶望、夕べには希望……..」 
リュネールが弱々しい声でお祈りを始める。
「いいかいリュネール? やるよ、うまくいくよ。」 ソレールが リュネールを元気づける。
「さぁ今だ、勇気を出して 君達の道を進め チンチラが進めと命令する。
「行くよ! 進め 進め」 ソレールが叫ぶ。
「す・・・す・・・す・・・」 リュネールは
飛ぶのが怖い。
「進め 進め ソレールは何度も繰り返す。
「すす・・・すす・・・しゅしゅ・・・め。」 リュネールは震えながら進む。
「進め 進め」 ソレールは元気に前進し続ける。

僕達のチンチラが隊列の先頭を行く。
次いで、ソレールとリュネールが虹の橋を一列になって進む。
眼下には雲々が見えるだけだ。
雲たちが挨拶する。
「私たちは古くからの知り合いだったね。」   
「初めまして。」
「ご機嫌いかがですか?」
「どうぞ、あなた方とお喋りさせてくださいな。」
「まぁ、お会いできて嬉しいこと。」
「友達になれて光栄です。」
「お家までお連れいたします。」
「どうぞ、お供させてくださいな。」
「もう遅いけれど、どうぞ暫くゆっくりなさってくださいな。」

「コクリコ」  「コクリコ」  「コクリコ
どこかで、ガリアの鶏が鳴いた。

11 – 3  ジュネスとの訣別

「待って、待って、君達と一緒に僕も虹の橋を渡るよ。待ってくれってば。」
突然、眼下の雲の切れ目からジュネスが怒鳴り泣き叫ぶのを聞いた。
「ジュネスが地上にいる
「決して過去を振り返ってはいけないって妖精たちが言ったでしょ。
急ごう」 
チンチラが忠告する。
「君たちが好きだよ。待ってよ。待ってよ。」 ジュネスが泣き始め、
それから小さくなって視界から消えていく。
「さようなら! ジュネス。 君のせいで、何もかも君のせいで」 リュネールが言う。
「さようなら! マ・ジュネス。僕達の恋人」 ソレールが言う。
「二度と 君のためには泣くまい」 リュネールがきっぱりと言い放った。


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眼下に 小さくなって

消えていく 人影は 僕達の 過ぎた
青春だった 
      いつか
くると よく 知っていた 君との訣別(わかれ) 

別離(わかれ)は いつでも あらたなる 出発だ 
明日は まだ 凍っている 暗い森を 
駆けぬけ 閉ざされた 湖を 渡り
光あふれる 草原を 再び めざす 

二度と 君のためには 泣くまい
JEUNESS 僕達の よく 知っている 
最も うつくしい 言葉で    ジュネス 
マ・ジュネス   君に さ ・ よ ・ う ・ な ・ ら

囲碁:03