13. 夕陽
13 – 1 石像
「見て! あの石像だ。」 リュネールが言う。
「そうだ、幾つもの小路を前にして迷子になった時、
シャトーまで僕達を導いてくれたあの石像だ。」 ソレールが言う。
桜花が咲いていない桜の樹があった。
「もう秋のようだ。」 とリュネール。
「ティニーは可愛くて素敵だったね。」 とソレール。
「妖精たちはどこ? シャトーはどこ?」 リュネールが尋ねる。
「すべて夢の中での出来事だったのか?」 ソレールが答える。
「すべて夢だったの? 夢?」 リュネールが呟く。
「愛おしい滞在。」 ソレールが呟く。
少し遠くに、夕陽に薔薇色に輝く懐かしいサーカスの屋根が見えた。
「僕達のサーカスだ!」 リュネールが叫ぶ。
「つまり僕達の父上のシャトーは、
サーカスの直ぐ背後にあったわけだ。」とソレール。
「なんということ!
それなのにシャトーに辿り着くために多くの歳月を費やした・・・・」
「僕達は知らなかったのだ!・・・・ まっさか~っ。 そんな
・・・・・・・・・・なんて長い旅だったのだろう。」
「若かった。 未来を信じ、僕達の行く手にはすべてがあった。
春風が吹いていた。」リュネールが歌いだす。
13 – 2 チンチラ
旅も終わりに近づいた。
「僕達の旅には、偉大なものは何もなかった。」 とソレール。
「二度と帰らぬ、ただ歳月だけが偉大だった。」 とリュネール。
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□□□
僕達の旅も 終わりに 近づいた
偉大なものは 何も なかった
□□すべてを 呑みこみ 流し去り
二度と 帰らぬ ただ 歳月だけが
偉大だった
「自由の風に吹かれて翼の女神、
サモトラケのニケ像が、長い間ず~っと君達を待っているよ。
君達には大切なタック・タックがいる。
もう僕がいなくても、君達の自由の道を歩き続けることができる。
幸運を祈るよ! ここでお別れだ。」
そう言い残すと、真っ白なチンチラは何処かへ風のように走り去った。
「待ってよ! 僕達のチンチラ、何処へ行くの?」
「待ってよ! 僕達の叡智、どこ、 どこ?」
ソレール と リュネール、ふたりはチンチラの後を追って駆け出した・・・・・・・・
13 – 3 夕陽
「リュネール、行くよ。僕達のサーカスに戻ろう。」
ソレールが言う。
「ソレール、帰ろう。サーカスで僕達の素晴らしかった旅を唄おう。」
リュネールが言う。
「どんな詩を?」
ソレールが尋ねる。
□□□
最高の讃辞ですら まだなにも
知らなかった 僕達を 襲った やさしい
□春風の讃辞には およぶまい
君に歌おう
「永遠よ、信じる。 自由よ、熱愛する。」
「進め!進め!ラ・ラ・ラ・ラ・・・・・・あなたも、あなた達も。」
季節はすでに秋であった。
夕陽は、地上の全ての喜びも悲しみも知り尽くした、その最後の優しい視線を投げかける。
ソレール と リュネール と タック・タックは三人とも裸足で、薔薇色に輝く長い陽射しの中、
腕を組み合って帰路を辿る。
その光線はかつてない程までに美しいことに、彼等自身は気づいてもいなかった。
アヴェニューの星々は、夕暮れ時のその美しさに眼を奪われ喜び合い、ともに集う。
そして一瞬ほんの一瞬のことだが、星々もまた永遠を信じる。
どんな鳥も 僕達の想像力より
高くは飛ばない
愛しい人よ みつめる眼差しに
□予期せず幸福をつかまえる
最愛の人よ かわす言葉の彼方に
□永遠が飛び去るのを見る
□□□□他者への信頼
□□□□明日への希望
□怖がってはいけない わたしの小鳥
永遠を 人は信じる
自由を 人は熱愛する
進め! 進め!
ラ・ラ・ラ・ラ・・・・・・・
そしてあなたは? あなた達も
朝には絶望
夕べには希望
進め! 進め!
ラ・ラ・ラ・ラ・・・・・・・
愛しあう我等 愛しあう我等
完