PierrotsJumeaux005jp

3. 黒い森のバルコニー

3 – 1    片足のオオカミ

大鷲を追っているうちに、ふたりは暗い森に入り込んでしまった。
「ここは、昼間でも薄暗いよ。」
「まるでオオカミの口の中にいるみたいに真っ暗だ。 怖い、どう~~しょう。」
リュネールは泉のごとくさめざめと泣き始めた。
ふたりは怯えて顔を見合わせた。
突然、片脚のオオカミが
よだれを垂らしながら、そっと忍あしで、
ふたりの前に姿を現した。残忍で恐ろしいオオカミだ。
「リュネール、 逃げよう」 ソレールが叫ぶ。ふたりで一緒に逃げ出した。
「ソレールソレール、 助けて」 リュネールも叫ぶ。
「リュネール! 逃げろ」 ソレールが叫ぶ。
リュネールは素早く逃げた。いつも一緒だったふたごが、
初めて離ればなれになって、暗い雑木林の森に散り散りに逃げた。

««« 巨大な狼は、動かずに座ったままで白い子羊を凝視し、
まずは眼で味わっていた。
食べることができるとよく分かっていたので、狼は急ごうとはしなかった。
子羊が振り返った時に、不気味に笑っただけだ。
「ハハハ。スガンさんの子羊か。」 その真っ赤な大舌で唇をなめまわした。
ブランケットは、もうどうすればいいのか分からなかった。
一晩中闘ったが朝には食べられてしまったルノード婆さんのことを思い出して、
すぐに食べられてしまう方が楽かもしれないとも思った。
が、考え直すと守りの態勢をとった。頭を低くしで角を前に突き出した。
ブランケットもスガンさんの勇敢な山羊なのだから。
狼を殺せる望みなどあるはずがない。
ただルノード婆さんと同じ位に長く持ちこたえられるかどうかを知りたいだけなのだ。
怪物が迫って来た。子羊は小さな角で踊りを踊るかのように立ち向かう。
あ~、なんと勇敢な子羊だろう
狼は、一休みするため10回以上も後退した。

戦いの僅かな合間に、相変わらず食いしん坊な子羊は大好きな草々を食べ、
それからまた戦いに戻る。くち一杯に草を頬張って・・・・・・
戦いは一晩中続いた。

時々、スガンさんの子羊は澄みきった空で輝く星々を見上げて呟いた。
「あ~、夜明けまで持ちこたえることができれば
ひとつまたひとつと後を追うかのように、星々は消えていった。
ブランケットは角を一発お見舞いし、狼も噛みついた。
水平線に白い光が現れた。
やがて、鶏のしわがれた声が農園から聞こえてきて朝を告げた。
「とうとう
死ぬまでに、もはや望むものは何ひとつないスガンさんの子羊は呟いた。
そして今ではすっかり血にまみれた、その白い美しい身体を大地に静かに横たえた。
狼は襲いかかった。»»»

*スガンさんの子羊    アルフォンス・ドーデ 1866年

3 – 2    沼地

すっかり疲れ果て、ソレールは眠りこけていた・・・・・・

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半ば夢の中で
ソレールは沼地で溺れかかっていた。もう一歩のところで、沼に落ちるところだった。
腕をつかんで、父親は我が子ソレールをしっかりと胸に抱き上げた。
「我が子よ、お前さんを見捨てるわけがないだろう。」
ソレールは父上にしがみつく。
「父上、怖かったよ。」
「愛しいソレール、リュネールと一緒に私の城に会いに来なさい。」
ソレールは父上の腕の中ですっかり眠りこけてしまう。

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「ねぇねぇ、起きてよ。」 真っ白なチンチラがソレールの耳元で囁く。
「急がないと 夜が 明けるよ。」
「チンチラ君、君って人間の言葉を話せるの。なんて素敵なのだろう。」 とソレール。
海のように青いチンチラの大きな眼が、広場に通じる道を教えてくれる。

3 – 3    雪割草

リュネールは、たった独りで危険な森の中を走り続け、野原に辿り着いた。
怠けごころに緑の草むらに眠る。

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半ば夢の中で
父親が、リュネールを腕の中に抱き寄せる。
「愛しい我が子よ。」
すっかり疲れ果てているリュネールは、国王の腕の中に身を投げる。
「父上、あなたは大地の臭いがする・・・・ソレールがいなくなって、独りぼっち
・・・・・あなたにあげる水浅黄いろした雪割草を探しに行くよ。」
「愛しいリュネール、ソレールと一緒に私の城に会いに来なさい。」




耳を すますと 春の嵐が 風に 舞う
蒲公英(たんぽぽ)の戦士たちを ひきつれて   
□□□凱旋する 足おとが きこえる

リュネールは父親の腕の中で深い眠りに落ちた。

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3 – 4    古井戸




突然 僕達を 襲う 夏の雨の 不安 
□□□□風に   揺れて 
□□□□雨に   揺れて 
NEVER-NEVER LAND へ 
□□□□□つづく道を 
みうしなって      さ迷えば

どこかで独りで歌うリュネールの歌声がソレールに聞こえた。
ソレールは、広場の古井戸に座っているリュネールを見つけた。
古井戸の水は、夜の満月を映し出していた。
どこにいたの
「どこにいたの! やっと会えたね。」 ふたりで、
同時に叫んだ。
「危機一髪、危ないところだった。」
「会えないかと思った。」
ふたり
古井戸の水を汲んで飲んだ。
古井戸の底では、こうこうと輝く満月が、ふたりを優しく照らしていた。
「見て そっくり同じ月がふたつだ。僕達みたいだね。」 とリュネール。
「僕は夢の中で父上にあったよ。」 とソレール。
「私も夢の中で。お城に会いに行こう。」 とリュネールが言い出す。
「あっ! 遠くに立派な樹が見える。」 とソレール。
「他の樹よりも立派で美しい。」 とリュネール。
「きっと、この怖い森から抜け出せる。」 とソレール。
ふたり揃って手を取りあい、
仲良しのチンチラと三人で立派な樹を目指して再び出発した。

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