6. 嵐
6 – 1 別離
「今日は風が強い。雨が降りそうな気配だ。」とソレール。
風にあおられあてライカは前に進む力が出ない。
「ライカ、どうしたの? 具合が悪いの?」
リュネールがライカを心配する。
「ここで休もう。明日の朝になったら、また元気になるよ、ライカ。」
ソレールが休もうと言い出す。
「嵐が来る気配・・・・・・すごく寒いよ。」
「ずぶ濡れだよ。」
土砂降りの雨が降り、皆で頭から足まで全身ずぶ濡れになってしまった。
ますます荒れ狂う暴風雨に襲われた。
ふたりはいつもの様にライカの傍らで眠った。眠れぬ夜を過ごした・・・・・・・。
嵐は静まり、長かった雨もやっと止んだ。
翌朝、明け方早くライカは冷たくなって、
まるで樹のように身動きしなかった。
「ライカ! ライカ!」
「ライカ!」
ライカの死を知って、ふたりは泣き叫んだ。
ふたりの愛しい幸福との別離だった。
水溜りが、色のない空を悲しげに映し出していた。
6 – 2 石像
ソレール と リュネールはふたりとも悲しくて、すっかりしょげていた。
「独りぼっちだ。」 リュネールが冬風に向かって一人で呟く。
「独りぼっちだ。」 ソレールもこだまの様に同じことを呟く。
「違う、違う。いつも私が傍にいるよ。君たちは決して独りぼっちではないよ。」
チンチラがふたりの傍に歩み寄る。
その話し方は、優しかった哲学者の口調を思い出させた。
哲学者はいつも 「違う、違う。」 と2回続けて早く否定して、
「そ~う。」 とゆっくりと一度だけ肯定する話し方をした。
いくつもの分かれ道の前で、一体どの方向に進めばよいのか、
ふたりにはもう分からなくなってしまった。
「間違った方向に進んでいるのではないだろうか。どうしよう。」
とリュネール。
「もうちょっとましな表現できないの?」
とソレール。
「これが唯一無二の最高の表現。もう、どうしようもない。」
リュネールが嘆く。
「詩があるよ。何か唄って。」ソレールが頼む。
「いや、歌う気になれない。 見て、メルベユーの大鷲だ。」
リュネールが叫ぶ。
「違う、違う、大鷲ではない。あれは他の鳥だ。
全く別の鳥どころか、あれはきっと話に聞くアホウドリだよ。
おバカさん。」とソレール。
「僕達の大鷲は何処に行ったのだろう?」リュネールが尋ねる。
「意地悪な風に負けそう。」ソレールが呟く。
空は、相変わらずどんよりとしていた。
□□
□□ゆるやかに だが 確実に
月日は 流れて 止めようもなく
流れて おさえようもなく
流れて 流れて
____僕達のこと おぼえておいてよ
□□□□..サニー・サイド・アップに
よく 似た 花束を 髪に かざって
口笛を 吹きながら 僕達は
□□光の中 大草原を 駆けていく
ソレールが リュネールに代わって唄う。
「ソレール、素敵。 私よりも上手!」 リュネールが喜ぶ。
「早めに出発しよう。」 とソレールがきっぱりと答える。
「えっ、出発するって!? 何処へ?」 リュネールは驚き、ノーとは言えなかった。
□□□
□□□□□□□□□□.狼に 追われて
風に 泣かされて 吹雪のなかを
ひた走る 山繭のような 君は
蒲公英の原野を 駆けぬける 春を
□□□□□□□□□□□□.夢みるのか
「見ろ! 夢に出てきた石像だ。」 ソレールが喜んで叫ぶ。
「丸い2個の石を積み上げた石像。」 とリュネールが続ける。
「その通りだ。この道を行こう。 やった~~!」
「やった~~! 待って。 待って、ソレール!」
6 – 3 雪
暫くすると、ふたりは、雪に覆われた誰もいない真っ白な道を歩いていた。
コヨーテの遠吠が聞こえた。
もはや進むことも引き返すこともできない道を辿っていた。
地面はすっかり雪に覆われていた。
「迷子になった。」 とソレールが言う。
「帰ろう。」 とリュネールが弱気になる。
「引き返すにはもう遅すぎる。
僕達のサーカスは美しかった。空には雲ひとつなく晴れ渡っていた。
あの青い空を憶えている?」 とソレールが尋ねる。
「僕達は、出発すべきではなかったよ。
あ~、春の太陽が降り注いでいた美しい日々。」 リュネールが溜息をつく。
「出発するかって? 豚がぶっ飛ぶ時だよ。
ありえないよ。もう絶対に嫌だよ、出発なんて。」
ソレールも、この点はリュネールに同感だった。
「シァン・シァンを牛の群れに預けたのは正しかったね。」 とリュネール。
「会いたいよ、タック・タック。 別れてからもう随分たった。
シァン・シァン、どうしているのだろう? 僕達のこと憶えているかしら?
僕の幸福、タック・タック。」 ソレールが一人言を言っている。
「いつになったら、この旅を終わらせるつもり?」 とリュネールが尋ねる。
「4日後に。」
「なぜ、4日。」
「近いうちにという意味だよ。」 ソレールが答える。
□
□そして 夜が 来た 僕達は
涙と汗で ぬれた かおを あげる
銀河系が 清烈な 光を 放ち
□□□オリオンが 矢を 射る
「僕達の祖国を離れてから、どれだけの月日が経ったのだろう?」
リュネールが呟く。
「もう、な~にも分からないよ。まいった。まいったよ。」
とソレールが出発したことを後悔する。
「ネヴァーランドって本当に在るの? 降参する。帰ろう!」
リュネールが頼む。
「見ていろ、降参なんかするもんか。」
絶望的になって、ソレールが腹を立てる。
「!!!!!?????」
驚いてリュネールは沈黙する。
□□夜の闇から ピューマの
オッド・アイ(金眼銀眼)が 獲物を みすえる
□□夕陽が 落ちて コヨーテの
なき声が 眠りを おびやかす
□□□□□□□□涙を ふいて
かおを あげて ごらん
キャプテン・フックを 乗せた 海賊船が
□よ空を こえていくのが みえるよ
□□□□□□□ボブ・キャットの姿
映しだす 川の流れに 呼んでも
二度と 帰らない 幸福の街が
浮かび また 浮かび 沈んでいく
□□□
にび色の 赤鹿の姿を みかけたら
伝えてよ もう 春の詩は
歌えないと 伝説の 大連の都は
遠く 遠く 遠のいていく
(水彩画)
真っ白に覆われた雪景色の彼方に、くっきりと小さなお城がその姿を現した。
雨雲の合間に、一瞬その姿を現す品格ある月のごとく。
「雨のあとは、」
「晴れるもの。」
初雪 迷路パズル